予定通り朝の7時半に手術室に入っていった。
執刀医の先生がやってきて、話をしてくれた。
若丸くんの冠動脈は壁内走行ではないにせよ、最もよくある形でもなかった。
だからその形の手術をしたことがあるのか聞いた。
執刀したTGAの手術25ケースほどのうち、2ケースが同じ形だったと言っていた。
2ケースが多いのか少ないのかわからなかった。
その2ケースが成功したかどうかは怖くて聞けなかった。
それにもう目の前のこのドクターを信じるしかなかった。
この人が今から手術室へ行き、あたしたちの息子の胸を開き、心臓を触るんだと思うとぞっとした。
全力を尽くします、と言って手術室へ向かっていった。
頼みます。息子をよろしくお願いします。
そう背中に向かってつぶやいた。
電話が鳴ったのは夕方4時半を少し過ぎた頃だった。
手術室に見送ってから9時間が経っていた。
「冠動脈の移植で難航した部分があったけれど、無事手術は成功しました。」
ICUでまだ麻酔がかかり人工呼吸器をつけて眠る息子を見るのは辛かった。
心臓が治り、体の中はいい状態になったに違いないんだろうけど、手術前に比べてたくさんの管に繋がれ、顔は浮腫み、あのかわいい目がぎゅっと閉ざされた姿に胸が痛くなった。
そして極めつけは、もしものときのためにと開かれたままの胸だった。
小さな体の半分以上が切られていた。
「期待通りの結果に終わったよ!若丸くんは穏やかな顔してるよ!」
とドクターたちは言っていた。
…そうか?苦痛がってるようにしか見えん。
と思ったけど、何を聞いても、
「彼はよくやってるよ!バイタルも安定してるし、何も心配いらない!素晴らしい!」
としか言わないドクターたちを信じ、あたしたちは帰路についた。
出産後初めての我が家だった。
食欲もあまりなく、シャワーもせず、ベッドに入った。
こんなに疲れたのはいつぶりだろう。
こうして出産から手術までの怒涛の10日間が過ぎ去った。