主人は一生懸命あたしを励ましてくれた。
どんなことになっても僕がいるから、と。
どんなことになっても僕とつまちゃんは子供たちのいる人生を送るんだ、と。
どんなことになっても何年後かに子供たちと畳の部屋に座って今日はどんな一日だった?って話をするんだ、って。
どんなことになっても僕たちは生まれてくる子供たち全員になりたいものになれる可能性を持った人生を送らせてあげるんだ、と。
それを思い描いて、と。
2人でTGA(大血管転移症)について調べた。
4人の両親とあたしたちの6人全員が日本語、英語、オランダ語で調べた結果は明るいものだった。
• 生まれてすぐに手術が必要になる。けれど
• 手術の成功率は95%以上
• そしてその多くが他の子どもと同じように成長し、大きな制限のない普通の生活が送れるということ。
インターネットから得られる情報は元気づけてくれるものが多かった。
それに加えて、あたしたちはヨーロッパでも名高い病院のチームが手術をしてくれるということだった。
この状況に置かれたあたしたちにとっては、最高の状況で出産を迎えられるという事実もある程度は気持ちを前に向かせてくれた。
ただやっぱり、まだ命が宿ってたった14週なのに、もうすでに手術することが決まっているなんて。
まさか自分の子供が先天性心疾患を持って生まれてくるなんて思いもしなかった。
そんな思いがのしかかった。
昨日までは妊娠してるんだと思うと、ただ幸せだった。
今はそこに鉛のような重さが加わった。
でもこの赤ちゃんは何も悪くない。
一生懸命生きているのに、重荷のように感じてるみたいで、自分が嫌になった。
1000人に7人という確率の大血管転移症。
それにかかった。
そうすると他のどんな数字を見ても高く感じてしまう。
95%成功率ということは残りの5%は?
大血管転移症にかかる確率に比べれば5%はすごく大きな数字だ。
それでも逆にいえば、これからどんな小さな可能性しかないようなことでも、0.7%に打ち勝ってきたあたしたちは次も小さな可能性に打ち勝てるんではないか。
そんなふうにも思った。
人生ではどこかで必ず試練が訪れるもの。
この手術が生まれてくる我が子にとって、一番の試練になったらいい、そしてあとは元気に生きていければいい。
そう思った。
辛いけれど受け入れるしかない。
でもそれと同時に気付かされたこともあった。
人はなんでも自分でコントロールできると思いがちだけど、精子と卵子が受精し、何百億の細胞が分裂を繰り返し、ヒトになってゆく。
それは生命の神秘であり、自然の成すもの。
雨や太陽をコントロールできないように、あたしたち人間にはどうしようもこともあるんだと気付かされた。
お母さんの声が聞こえるらしいから話しかけようと思った。
でもなんて話しかけていいかわからなかった。
頑張って、と言えなかった。
頑張らなくていい。
ただ成長してくれるだけでいい。